社会保障の副作用は怖い-労働意欲欠乏症になった人々!

2012/05/31

イギリスからのレポートです。

 店の前には長蛇の列、中では若い店員がにこやかに働くサンドイッチ店が、今全英に次々とチェーン店を広げています。1月のテレグラフ紙によれば、この店の全店員が移民だそうです。今英国の飲食店やスーパーで働いているほとんどが外国人です。英国の南部と北部で5人に1人が社会保障受給者だというのに、1つ売って5ペンス儲けのこんな店で誰1人として働こうとしません。

 2011年11月のメール紙では、人口数千に無職の若者が745人いる町の家具工場が弟子を募集し、見習工の相場が時給2ポンド60ペンスのところ、この工場は3ポンド50ペンス出し、技術習得の暁には給料は何倍にも跳ね上がるというのに、1人の応募者もないと嘆きます。全英で学業を終えても無職の16歳から24歳までの百万人が社会保障で生活しているにもかかわらずです。

 2011年12月のメール紙は、リバプールのある町では75%の子どもが婚外出生児と報じました。全国では45%ですから、「結婚を忘れた母の町」と題されるのも無理ありません。しかしこの町には高層公営団地が建ち、緑多く花咲く公園があって他の町と見劣りしないと、報じています。この町の何もかもが税金で賄われているのです。片手に煙草、もう片方で乳母車を押す若い母親たちが陽気におしゃべりをしながら行き交っているそうです。彼女らのほとんどに夫も子どもの養育費を払う父親もおらず、仕事もしていません。

「社会保障の他に何が必要なの」と彼女らは言い、次々と父親の違う子どもを産んでいます。職に就けば子どもに良くないし、仕事をしても給料は社会手当よりはるかに低いから仕事をしない方がまし」と言い切ります。支給額の例をみると、5歳未満の子ども2人の母子家庭で公営住宅に住む場合、支給額は週260ポンドです。

リバプールの職安の週末のみ8時間就労の家政婦募集は週給92ポンド24ペンス、もう1件は週20時間労働で123ポンド60ペンスです。働かなければ生活保護、子ども手当、住宅支給、その他諸々の優遇処置が得られます。無職の母子家庭で、貧困に陥らず、また子どもが増える毎に手当が加算されるため、働いている家庭より豊かに生活できる理由がここにあります。このような母子家庭が70年代に出現し、親が一生働かず社会保障で生活する家庭で生まれ育ち、欲しい物は政府が与えるべきものと思い込んでいる2世、3世は働くことにも結婚にも意味や価値を見出せないようです。

 国が経済危機に陥った昨今、社会保障の見直しで、政府が支給額の上限を納税者の平均所得以下に抑えようと議会に提案したところ、直ちに却下。キャメロン首相は昨年暮れ、ただ手当を支給するのではなく、国民が自分の生活は自分で支えるよう仕向けることこそ必要との声明を発表しました。その矢先、この夏のロンドン・オリンピックに向けて新型バスを導入し、運転手をポーランドから雇うとのニュースが伝わりました。多くの納税者は英国に失業者が溢れているのになぜ外国から雇うのか、60年代電車の運転手不足でカリブ諸国から雇ったニの舞をするのかと非難しますが、社会保障手当より安い賃金の運転手のなり手がありません。

 「ゆりかごから墓場まで」の社会保障薬を長く服用し過ぎた副作用で、働く意義も価値も忘れた人々が、働く喜びと誇りを取り戻すのは何と難しいことでしょう。


公営住宅1
【公営住宅1】

公営住宅2
【公営住宅2】

公営住宅3
【公営住宅3】

公営住宅4
【公営住宅4】

いずれも公営住宅。民間住宅と見比べて建物は劣りませんが、「真っ昼間に人がいて中からテレビの音が聞こえるのが公営住宅、昼間誰も家にいないのが民間住宅、民間住宅の住人は夫婦共働きしないと、住宅ローンと税金が払えない」と誰かが言った言葉が的を得ています。

公営住宅の前の公園で雪と戯れる子どもたち1
【公営住宅の前の公園で雪と戯れる子どもたち1】

公営住宅の前の公園で雪と戯れる子どもたち2
【公営住宅の前の公園で雪と戯れる子どもたち2】

この子たちは親の働く背を見たことがあるのかしら、という想いがふと浮びました。

【特派員情報】

イギリス・ケンブリッジ在住 いそのゆきこさんからの情報でした。
 

特派員 いそのゆきこさん 著書:「BBC TALK JAPANESE」
関連サイト: :地球はとっても丸い