シリーズ「私の好きな風景」(5)〜車窓から眺めた夕暮れのフリアカ(ペルー)〜

2012/02/16

錆びた車、山と積まれた古タイヤ、売り物か廃棄物か分からないネジや鉄くず、ビニール袋に覆われた小汚い荷物…
太陽が西に傾き始めるころ、クスコ発プーノ行きの高原列車はペルー南部の街フリアカを通過する。車窓から見えるのは、乗客をついさっきまで魅了していた抜けるような青空や雄大なアンデスの山々ではなく、煤けた色合いのスラム街だ。どこから集めてきたのか分からない古びた商品を並べ、人々は少しでも多く稼ごうと線路のすぐ脇にまで露店を広げている。

優雅でハイクオリティな旅を提供し、世界中の観光客から高い評価を受けているアンデスの豪華列車だが、このフリアカに関しては何も触れようとはしない。それもそのはず、経済格差というペルーの現実をしみじみと実感してしまうポイントだからだ。ふかふかのソファーにおしゃれなバー、行き届いたサービスとフルコースの贅沢なランチ。その魅力に惹かれ世界中から次々と観光客がやって来るが、田園風景の幕間に突如として現れる極めて庶民的な光景には皆驚きの色を隠せない。まるで心地よい午睡のひと時を邪魔されたかのように、あからさまに眉をひそめる者さえいる。

しかし、私にとってこの数分は、アンデスの景色に優るとも劣らぬ印象深いものとして記憶に残っている。なぜなら列車に向かって手を振る人々がなんとも屈託のない笑顔で、本当に楽しそうだったからだ。人々の無邪気さや人懐っこさ、線路の上まで違法に占領してしまう図々しさやふてぶてしさからなぜか目が離せなかった。

日本の3.4倍の国土を持つペルーでの移動には、ほとんどの場合バスが利用される。建設費や維持費のかかる鉄道は全国でも数えるほどしかなく、その大部分が観光客向けの豪華なものか貨物列車だ。ペルー人の多くは鉄道に乗ることもないだろうし、ましてやこうした客車の中にどんな世界が広がっているかは想像もつかないだろう。しかし、週3~4回しか通らないこの列車を眺めるのは彼らの楽しみであり、小さな子供までが一生懸命手を振ってくれた。

こういう光景を見て、「貧しい、汚い」と一蹴してしまう人もいるだろう。しかしこれもペルーの姿であり、彼らの逞しさがペルー経済の根底を支えている。好奇心いっぱいの目をしたフリアカの少年と、長旅の疲れから虚ろな瞳の観光客。シャッターを切りながら、「今この瞬間、いったいどっちが幸せなのだろう?」と、そんなことを考えてしまった。





【特派員情報】

ペルーの首都リマ在住 原田慶子さんからの情報でした。
 

ペルーの首都リマ在住 原田慶子さん
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Blog:ペルー片道切符