シリーズ「世界の泥棒」(3)
30人の集団リンゴ泥棒
~ドイツ・ベルグノイシュタット~

2010/11/18

トルコ移民の多いことで知られるドイツではこんな盗難事件もあります。
500坪ほどの土地のあちこちにりんごを植え、その世話を趣味にしている義理の父が、ある日りんごの手入れをしていると、トルコ人のおばあさんが「落ちたりんごを少しもらえませんか」と尋ねてきました。収穫を待たずに地面に落ちたりんごの大半は虫食いなどであまり価値もないので、義父は気軽に「どうぞ」と答えたのです。しかしその日の午後外出から帰ってきてみると、近日中に収穫するはずの、まだ木になっていたりんご、3分の1ほどが跡形もなく消えているのです!

真相をつきとめるため、翌日は家から見張っていた義父が目にしたのは、両手にかごや袋をかかえたトルコ人30人ほどの団体です。聞いてみれば「この家の人はとても親切で、庭の果実を無料でくれると聞いた」との返事が返ってきました。きちんと説明をして帰しましたが、その後も無断で庭に入り込み、注意するとドイツ語はわからないと嘯く例も多々あったため、とうとう庭の入り口に監視カメラ付の門扉をとりつけなければならない羽目になったということです。

盗難にあったリンゴの木
【盗難にあったリンゴの木】            【今年なったリンゴ】 

高度成長期時代に労働移民として大量にドイツに移住したトルコ人たちは、独自のコミュニティーを形成し、10年以上ドイツに暮らしていてもドイツ語ができない人がいるなど、その融合が今でも大きな課題となっています。低所得者の割合が多い、職業資格取得のための学業を修了する若者が少ない、などを背景に、犯罪や不法労働などで摘発される例も多いのです。被害にあった義父は「外国人だからと色眼鏡で見たくはないが、あの事件からトルコ人に対する考えが少し変わったのは事実」と話します。

義父が丹精こめて育てている、勿論無農薬のりんごは収穫後、りんごジュースとして搾ったり、ジャムとして加工したりしてくれる地元の工場に持って行き、りんごの量に合わせて、ジュースやジャムなどと交換するという取引を、義父の父の代から続けています。地産地消が流行るずっと前から、ドイツのこの地方では地元で収穫したりんごを地元で加工し、地元で消費するということを伝統として続けてきたのです。毎年孫たちにたくさんの無農薬果汁100%ジュースをプレゼントしていた義父にとっては、金銭面の被害よりも、孫や子どもたちをがっかりさせるという精神面でのショックの方が大きかったようです。

加工されたジャムとジュース
【加工されたジャムとジュース】

筆者のトルコ人の友人は「ごく一部のそうした人々のために、トルコ人のモラルは低い、とひとくくりにされることが一番つらい」と言います。また「貧しいからという理由だけでなく、トルコ人は自然の恵みはなんでも大切に利用しようとすることも事実」と、最近のドイツ人が見向きもしないような道端の木の実を集めるトルコ人たちの価値観の違いも指摘します。ドイツが世界に開かれた国となるために「共存」という意味で超えなければならないハードルがまだあるようです。


【特派員情報】

ドイツ北部キール近郊の村に住むツムトーベル由起江さんからの情報でした。


特派員 ツムトーベル由起江さん
レポート・翻訳・日本語教育を行う。1999年よりドイツ在住。
ドイツの社会面から教育・食文化までレポート。家族は、ドイツ人の夫、9歳の長男、6歳の長女、4歳の次女。
関連サイト:地球はとっても丸いプロジェクト